俺と「マネー・ショート」

〜ある昼下がりの午後〜

「ヘイ、マイク!久しぶり。」
「どうしたんだいフィル?」
「いやー、先日マネー・ショートっていう映画を見たんだけど、説明が全くチンプンカンプンでさ…。で、こういうことに詳しそうな君に色々聞きに来たわけさ!」
「よし、分かった!じゃあ、まずはこの映画の題材となってるMBSを説明しよう。MBSっていうのはモーゲ…」
「ちょっと待った!もうその時点で意味わかんねーから、もっと分かりやすく例えてくれよ!映画とかで。」
「…。よし分かった!まずはMBS。これな、めちゃくちゃ強い。」
MBSはめちゃくちゃ強いのか…。どのくらい強いんだ?」
「ドニーさんと同じぐらい強い。もう宇宙最強。」
「そいつはヤバイな…。」


「だからもうMBSはドニーさんだとしよう。そんなドニーさんのことを俺が”おい、宇宙最強のドニーさんが負けてしまうぞ!”って言い出したらどうする?」
「そりゃ、頭大丈夫かと思うし、下手したら友人関係も考えるな…。」
「これが映画の中のクリスチャン・ベールな!」
「マジか…。俺が投資家だとしたら、こんなこと言うやつから金引き上げたくなるわ…。」
「よし、じゃあ話をドニーさんに戻そう。フィルは何でドニーさんが宇宙最強だと思うんだ。」
「そりゃ、三段蹴りみたいな凄いアクション見せられたら宇宙最強だと思うし、知り合いも皆ドニーさんが宇宙最強って言ってるよ!」
「フィルよ、しっているか?最近のドニーさんの蹴りが三段蹴りじゃなくて、2.8段蹴りぐらいになってるっていうことを…。」
「…いや、そんな訳ないだろ!だってドニーさんは宇宙最強なんだぜ!仮にもしそうだとしても、じゃあドニーさんはいつ、誰に負けるんだよ!」
「そいつは分からん。俺が言えるのは近々ドニーさんが負けて死ぬということだけなんだ。」
「はっ?じゃあどうやって大金を稼ぐんだよ!いつ負けるかも分かってないなら賭けにも出来ねえよ!!」
「そこでだ、映画のクリスチャン・ベールはドニーさんの生命保険を買ったんだよ。これがCDSな。」
CDSは生命保険と…。」
「そこで保険屋にドニーさんの生命保険の価格を聞いて見よう、おーい、保険屋!」
「まいどー。」
「ドニーさんの生命保険を買いたいんだが、1億円分だとどの位の金額になるんだ?」
「お客さん本気で言ってるんですか。ドニーさんは宇宙最強だから死ぬわけないですよ…。まあ仮に入るとするなら、掛け金は月千円ぐらいですかね。」
「よし。じゃあ、フィル名義で100億円分くれ!」
「まいどー!」
「おいおい、マイク、そんなに買って大丈夫なのかよ…。俺そんなに金持ってないぞ。」
「俺を信じろ!」
「ハイ、じゃあコレがドニーさんの保険証書ね。毎月掛け金はちゃんと払ってくださいね。」
「マイク…どうすんだよ…。」

〜時は流れて〜

「おい、マイク聞いたか!ドニーさんが…ドニーさんが…」
「おいおい、フィル。浮かない顔してどうしたんだ。」
「お前、宇宙最強のドニーさんがアイツに負けて死んだのに、何で平気な顔してるんだよ!」
「そんなことより、保険金の受け取りに行こうぜ!100億円分の保険金で大もうけできてるはずだし。」
「いや、ドニーさんが死んだって言うのに保険金受け取ってる場合じゃないだろ…。」
「フィル。今君が感じてる何ともいえない感情、この世界が今後どうなっていくかも分からないことに対する感情が、あの映画で多くの人々が感じてた感情なんだよ。」
「マイク…。」
「じゃあ、ひとまず保険金を受け取りに行こうか…。」



<補足>
もちろん、ドニーさんは宇宙最強なので負けて死んだりはしません!
ということはおいといて、この映画の三者クリスチャン・ベールとスティーブ・カレル、ブラット・ピットたち)はそれぞれ役割が違ってます。
今回のたとえ話だと、MBS市場の崩壊を予想しCDSを使うことを思いついたクリスチャン・ベールに焦点を当てた内容になってますが、他の二者にももちろんそれぞれの役割があります。あくまで数値の上で債券の破綻を予言したクリスチャン・ベールに対して、実際に現場に足を運び、MBS市場の欺瞞の裏を取ったスティーブ・カレル。そして、AAAランクの債権にもCDSを設定した、今回の例えにあわせるならドニーさん以外にもロック様とかジェイソン・ステイサムとかの保険金も買ったという、ブラット・ピットたち。これら三者の関係はホップ・ステップ・ジャンプって感じだったと思います。
あと、映画では、金融機関の欺瞞に対してある種の義憤のような気持ちでCDSを買っていたはずなのに、その利益を得ること事態が金融制度の環の中から逃れられないという事実に葛藤するスティーブ・カレルの視点がラストに来るわけですが、今回のたとえ話だとちょっとそこまで盛り込めなかったのは、私の力不足ですね…。

たとえ話が間違ってたらごめんなさい!(この文章に対するCDS