俺と「2016年1月の映画 その1」

「2016年はもうちょっときちんと映画の感想書きたいな…」などと思ってましたが、なかなか1本の映画についてまともな感想を書くのは結構難儀なものです。ただ、このままずるずるいったのでは、年末にまた「今年何見たっけな…」と迷うことは間違いなし!という訳で、一月単位で見た映画の中で印象的な作品をまとめて見たいと思います。ちなみに今月は良い作品が多かったので2回に分けて、かつ紹介する順番は見た順です。


「ストレイト・アウタ・コンプトン」
ギャングスタ・ラップの伝説的なグループ「N.W.A」の伝記的映画ですが、私自身この映画で取り扱っているギャングスタ・ラップという文化には非常に疎い、というか全く興味もない人でした。しかし、そんな興味のない私でもグイグイと引き込まれていく非常に面白い作品になっていましたよ。
若者たちがとてつもない成功を収める成り上がりの物語である一方で、成功のもたらす闇が彼らの友情を壊していく転落の物語でもあり、まさに音楽業界の光と闇を描いた作品です。イーストウッドが「ジャージ・ボーイズ」でも音楽業界の光と影を描いていましたが、それよりもはるかに生々しく、そして暴力的な作品(特にシュグ・ナイトのやばいオーラが半端ない!)でした。一方で同時代のアメリカに住む黒人の若者を描いた作品でもあり。彼らの音楽が持つ強烈なパワー、特に「F●●k The Police」はその象徴であり、それらが生まれるきっかけやライブという形で爆発していく様子は、若者だからこそ描ける彼らの抑圧された状況に対する強いメッセージが、人種や国、時代を超えて共感を生んでいくようにを感じました。
ちなみにアイス・キューブもこのグループの出身ですが、その本人を彼の息子が演じています。これがめちゃくちゃオヤジ似で、やっぱ親子だよなーなんて思うほどにそっくり!


ブリッジ・オブ・スパイ
この映画はまさに”重厚”という言葉がピッタリな作品だと思います。例えば、冒頭にある追跡劇。台詞でのやりとりは全く無く、ただ視線のやり取りだけでなにか不穏な状況を演出しており、カッコいいシーンというよりも渋い、激シブなシーンで、この映画を象徴してるシーンだと思いましたね。
映画は冷戦下の対立の中で自分の正義を貫き通す男たちの物語です。それぞれに立場や信念があり、それを超えたときに感じるお互いの絆にジーンとするのですが、特にトム・ハンクス演じる主人公の人間的な魅力にあふれるキャラクターに、私はキャプテン・アメリカを思い出したりしましたよ。キャプテン・アメリカはその正義が揺るがないことが、その能力よりも彼をよりヒーロー然とした存在にしていると思うのですが、今回のトム・ハンクスも終始一貫して「彼の中の正義を貫くこと」に揺らぎが無いのです。そういうブレなさ(これはもう一方のマーク・ライランスにも言える)がこの物語の魅力の一つなのかなと思ったりしました。


フランス組曲
見る前は「ミシェル・ウィリアムズ出てるけど、あらすじ読むとメロドラマみたいだな…」などと思ってましたが、いやいやこれが第二次大戦を描いた重厚なドラマでとても良かったですね。確かに途中まではドイツ軍将校と占領下のフランス婦人の許されざる恋といった感じの作品なのですが、そんなゆるふわムードとは対照的に徐々に高まる不穏な空気、住民たちと地主たちとの関係が徐々に変わっていく様子にだんだんと目が離せなくなりましたね。序盤は恋7:戦争3みたいな割合の物語が、途中から恋3:戦争7にガラッと変わっていった映画といった印象ですよ。
キャストは相変わらず艶やか印象のあるミシェル・ウィリアムズが素晴らしかったのはもちろんのこと、義母役のクリスティン・スコット・トーマスの「あさが来た」の萬田久子ばりの鬼姑も良かったですし、ドイツ軍の若い将校は「ピエロがお前を嘲笑う」のトム・シリングが憎たらしい感じ出たりしてましたね。
ただ、何よりエンドロールに強烈なインパクトがありました。去年の「カンフー・ジャングル」は香港映画愛にあふれた素晴らしいエンドロールでしたが、この作品は原作者への敬意と、彼女がこの物語で伝えたかったその思いが伝わってくるような内容で、映画本編よりも強く印象に残ってます。


「イット・フォローズ」
さて、このホラー映画、80年代ホラーのお約束を踏襲しながらも、「ヴィジット」のようなちょっと変わった感覚が入り混じったホラー映画でした。まず、知ってほしいのはこの映画の3つのルール、
 ①「それ」は他の人からは見えない
 ②「それ」は様々な形に姿を変えてついてくるけど、移動は徒歩のみ
 ③他人に「それ」をうつす手段は性交渉のみ
主人公は80年代ホラーのお約束通りと言って良い大学生の可愛いお姉ちゃんなんですが、ある日「それ」を感染されてしまいます。初めは「それ」を信じていなかった彼女も、「それ」と対面する日がやってきて、それの恐怖に気づくというストーリー。
この映画の恐怖の源は「それ」が何かよく分からないということだと思いましたね。もちろん、彼女視点だと「それ」が見えるのですが、そうじゃないと「それ」が近づいてきているのかすらもよく分からない。なので、見ている側はいつ「それ」が来るのかという緊張感を常時もってこの作品を見ているので、「ヴィジット」のババァが来るのか来ないのかという同じ独特の緊張感がありましたね。また、何の変哲も無いただの風景を映したシーンでも、もしかしたら「それ」がうつってるかもしれない、こちら側の想像力をかき立てる作品だなとも思いましたね。
あと、独特のいやーな感じを更に盛り上げるのが、今や絶滅危惧種と言って良い80年代のシンセサイザーが奏でる電子音。その懐かしくて近未来的な感じがこの映画の雰囲気ととてもマッチしてて良かった!


パディントン
パンフレットで知ったのですが、この映画の主人公「パディントン」の声を初めに演じるはずだったのはコリン・ファースだったとのことで、そんなキャラクターの人選からも分かるように、この映画の魅力の一つは、ザ・英国という感じの、英国エッセンスにあるなと思います。
例えば、縦に細長い家の構造や駅の注意書き「犬は抱えてエレベータに乗りましょう」というウィットが効いてる感じ、もちろん冒頭に描かれる古きよきイギリス紳士への憧憬なんかもそうですね。あと、そもそもクマが駅にいるのに特に動じないところからして、何かイギリスっぽいぞ!(行ったことはないけど)また、骨董屋のおじいさんの鉄道模型がお菓子を運んでくるギミックや、地理協会の書類を探し出してくる仕掛けなんかは、去年見た「キングスマン」や「007」といったスパイ映画を彷彿とさせましたね。(もちろん、ミッション・インポッシブルシリーズのパロディも楽しかった!)
そして、もちろんキャラクターがとても良い。パディントンたちのクマ一家もモチロン良かったですが、個人的には、ブラウン夫妻のキャラクターがグッときました。サリー・ホーキンス演じる包容力と行動力がある奥さんと、かつてはやんちゃしてたヒュー・ボネヴィルの旦那さんのコンビが持ってるお互いへの愛情にぐっときました。
まあ、何はともあれマーマレードサンドが食べたくなる映画ですよ!


残りの作品の感想についてはまた後日にでも…。