俺と「ハイローの秘密」

これは秋の深まりを感じるある午後に起きた出来事です…。

「やあ、ピーター。どうしたんだい?そんな世界が終わりそうな表情をしてるけども」
「マイク…聴いてくれるかい?実は僕、大変なことに気付いてしまったようなんだ…」
「大変なこととか言いながら、本当に大変なことなのかねぇ」
「もちろんそうだよ。ところで、マイクはハイローは見たかい?」
「ハイローって”HiGH&LOW”のこと?ドラマは見てないけど映画は二本とも見たよ」
「なら大丈夫だよ。僕もドラマは見てないけど、あの世界に隠される秘密に気付いてしまったんだよ…」

「で、どんな秘密なのさ」
「マイクはハイロー界で最強の武器って何だと思う?」
「武器って言っても1作目は素手の殴り合いがメインだし、2作目も銃が最強っていうイメージが無いし…。となると龍也さんを倒した車かな?」
「確かに一部では車最強説が採られてるハイロー界だよね。ただ、僕が気付いてしまったのは、あの映画で恐れるべきなのもっと別のことだっていうことなんだ…」
「え?どういうこと?車よりも銃よりも強い武器があったっていうこと?」
「いや、本当に恐れるべきなのは個々の武器なんかじゃないんだよ!マイク、確かに車はあのMUGENのメンバーだった龍也さんをも倒した最強の武器だ。だけど、同じ事故に遭った九十九さんは助かってるよね」
「確かにそうだけど、あれは龍也さんのおかげなんじゃ…。ピーターは何が龍也さんと九十九さんの生死を分けたっていうんだ?」
「龍也さんと九十九さんの生死を分けたもの…。それは仕事だ!」
「えっ?」

「いやいや、全く意味が分からないんだけど!」
「フィル。よくよく思いしてみてくれ。ハイローの主要人物で死んでしまったのは仕事を持ってる九十九さんだけだってことを…」
「でも…」
「そして"THE RED RAIN"でヤクザモノを除いて死んでしまったのは、弁護士と工場経営者夫妻…」
「いやいや、ちょっとこじつけなんじゃ…」
「フィルは不思議に思わないかい?ハイローの世界の中で仕事や労働といった社会的な概念が薄すぎると言う点を!」
「だってヤンキーものだし…」
「ヤンキーだっていつかは社会に出て働くわけだろ。でも、ハイローの世界にはそういったことの描写って言うのは殆ど無いよね。むしろ、あえて出していない風にすら感じるわけだ!それは何故か、そういったことを選択したら、最終的に死んでしまうからなんだよ!」
「ちょっと勘ぐり過ぎじゃ…」
「例えば、鬼邪高校ではスカウトを待つために何年も留年するという荒唐無稽な設定があるけど、実はコレも彼らなりの死を回避するための術なんだよ!」
「なっ、なんだってー!?」
「更には、シャッター街になってる山王街や、現代日本とは思えないような無名街。普通に考えたらこれらの地区はむしろ再開発された方が、治安や雇用も安定する普通に考えたらそうでしょ!」
「でも、九龍のやつらの目論見もあるし…」
「いや、違うね。恐らく彼らが恐れているのは再開発され、安定した生活を送ってしまうことが死につながるって言うことを本能的に感じ取っているんだよ!!」
「じゃあ、いい大人として描写されてる人たちが大抵ろくでなしなのも…」
「それ以外の普通の人がハイローの表舞台に出てくると、死に繋がってしまうからなんだ…」
「なんてこった。ピーター、君はなんという秘密を知ってしまったんだよ!!」
「ここからは僕の推測なんだが、逆にSWORDの人たちの異様なまでの耐久力の高さ。拳で殴られても鉄パイプで殴打されても立ち上がってくるあの生命力の強さは…」
「働かないことに起因してるの可能性があるんだ」
「そ、そんな…」


「そういえばピーター深刻な表情をしてた理由を教えてくれないか?」
「マイク…残念なお知らせがあるんだ…。実は僕はこないだ就職が決まったんだ…。」
「えっ?で、でもあの映画はただ単に映画の世界の出来事だから現実には関係ないよね!!」
「もちろん、そうだと思うけど。ちょっと遠くに行くことになりそうなんで挨拶しておこうと思ってね。」
「そうなんだ。ハイローの話を聞いたからちょっと不安に思えるけど、おめでとう!これから頑張ってよ。」
「ありがとう。マイクも元気でね。」

そして、これがピーターを見た最後の時だったのです…。