俺と2019年上半期の映画

 今年も半年が過ぎ、年号が平成から令和に変わったり、映画料金がほとんどの劇場で上がったりと色々あったりなかったりですが、なんだかんだでいつも以上に映画館で映画を見てしまったので、久方ぶりに上半期に見た映画を振り返ってみたいと思います。

 

 まずは鑑賞本数(と鑑賞回数)から。

  • 新作鑑賞作品数 97本(99回)
  • 旧作・映画祭鑑賞作品数 20本

 

というわけで、上半期だけで新旧合わせて100本を超える映画を見てしまうという、人としてどうよと思わなくもない状況になりましたが、今年で終わってしまうTOHOフリーパスを年始に発動したりしたからね…と自分に言い聞かせています。

 そんなTOHOシネマズのマイルですが、これだけ映画を見たら順調にたまっているわけで、フリーパスの引換が無くなる前にもう1回ぐらいフリーパスを引き換えられそうな予感です。

 

 さて、今年は久しぶりに劇場で複数回鑑賞する作品にも出会ったりもしたわけですが、そんな新作として公開された作品の中で上半期好きだった作品10選+αを紹介しましょう。(なお、映画の中身にあまり触れないはず…)

 

1.「愛と銃弾」

 ここ数年、ちょくちょくイタリア映画祭に参加したりと、映画製作国として個人的に注目している国がイタリアで、結構な頻度でガツンと来る作品が来るのですが、昨年のイタリア映画祭の大阪会場で公開されなかった本作が今年上半期で一番ガツンと着た作品でしたね。

 イタリアのアカデミー賞に当たるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞を受賞した作品でもあるのですが、「この作品にそんな賞あげるのかよ。イタリア人すげぇ!」と思うほど、いろいろ混ざりすぎて頭のねじがちょっとぶっ飛んでる作品で、前情報もなしに真っ新な状態で見れて感謝しかない…と思った作品でした。

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2.「サスペリア

 そういえばこの人もイタリア人でしたねのルカ・グァダニーノ監督。日本デビュー作「ミラノ 愛に生きる」から前作「君の名前で僕を呼んで」全作…といっても3作しかないけども、見ている中で一番好きなのが「胸騒ぎのシチリア」という異端児としては、アカデミー賞にノミネートされるなどの世界的評価の高い前作がそこまで好きになれなかったのです。

 その理由を考えると、やはりティルダ様が出ていないのがダメなんじゃないのかという結論に辿り着き、ティルダ様とルカ監督がタッグを組んだ本作がたまらないほど好きな私としては、自身の説が間違ってなかったという間違ってるかもしれない思いを強くしたのでした。

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3.「女王陛下のお気に入り

 ルカ・グァダニーノ監督に負けず劣らずのクセの強い作品を送り出すギリシア人のヨルゴス・ランティモス監督ですが、前作の「聖なる鹿殺し」は個人的に難解というか、イマイチ面白くないなと思ったのですが、本作は非常に良かった。彼の独特のこだわりのある絵作りはそのままに、人間関係の描写、退廃的な美術などの要素が上手くマッチングして、彼の作品としてはもちろん、今年のアカデミー賞関連の作品の中でも一番好きな作品でしたね。

 各々キャラクターの持つ二面性というか、自身の持つ本質は他人はもちろん慈雲寺審でも制御できないような何かを感じさせる主演の役者陣の演技がとても良くて、これがどこか人間の持つ善性なんかを信じていないように感じさせる監督の作風と非常にマッチしてた気がしました。

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4.「バジュランギおじさんと、小さな迷子」

 2019年はマーベルの大作映画が一区切りを迎えた年でもあり、それもあってか色んなヒーロー映画が公開されましたが、個人的に一番グッと来たヒーロー映画がこの一見ヒーロー映画っぽくないインド映画でしたね。

 物語は誰もが分かるベタなお話なのですが、そんなベタな展開の裏にインドとパキスタンの微妙な関係を、その背景をよく知らない我々にもわかるような形で落とし込んでいたりと、ベタだけど上手いと感じさせるインド映画の良さがとてもよく出ていたと思いますね。

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5.「ジュリアン」

 今年は例年以上にダメな父親、ヤバい父親が描かれる映画が多かった気がします。ぱっと思いつくだけでも、「荒野にて」や「フロントランナー」「ガラスの城の約束」なんかの父親キャラの描かれ方は三者三様にヤバさを感じさせたのですが、そんな父親たちのヤバさを合わせてもまだ足りないぐらいヤバかったのが「ジュリアン」の父親で、映画のラスト10分ぐらいは久々で劇場で背筋をピンと伸ばすほど全身を緊張させながらスクリーンをじっと見つめていましたね。

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6.「幸福なラザロ」

 2019年はイタリア映画の当たり年…になるかは下半期の状況にもよると思いますが、「愛と銃弾」とは全く違うベクトルの「幸福なラザロ」という傑作が見れただけで、やっぱり2019年はイタリア映画の当たり年と断言しましょう!させてください。してもいいかな…。

 監督の前作「夏をゆく人々」を見逃したのを後悔するぐらい、それほどまでに完成された魅力と世界観がある作品で、特に現実と非現実の境目がないような描写は見終わった後に何とも言えない余韻に浸ったのでした。この感覚は今年リバイバル上映されたイ・チャンドンの「オアシス」で序盤にあるマンションの中で鳩が舞うシーンと同じような感覚だったなと。

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7.「町田くんの世界

 上に挙げた「幸福なラザロ」と同じく、現代の寓話、現実世界を舞台にしたファンタジーのようなイメージがあるのがこの「町田くんの世界」で、久々に石井裕也監督のコメディセンスがいい方向に回ってたと感じる作品でした。主演の二人は新人の役者ということで、映画序盤は非常にぎこちなさ、違和感があるように感じるのですが、その違和感すらいい方向に変えてしまう前田敦子先輩の貫禄と存在感よ…。彼女のためにこの映画が存在しているといっても過言じゃないくらい先輩は素晴らしくて、「モラトリアムたま子」の再来か…と思ったりしました。

 まあ、石井裕也のニガテな部分だと個人的に強く感じる、安っぽい悪の描写は前作同様に残ってたりもして、「マジで石井裕也は携帯電話いじってるやつに、一族郎党皆殺しにあったのか」と思うような演出もあるのですが、そのマイナスを差し引いて余りある魅力がある映画でした。

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8.「僕たちは希望という名の列車に乗った」

 事実は小説よりも奇なりを地で行くこの物語。上記の「サスペリア」をはじめ、最近結構映画の舞台になることが多い第二次大戦後のドイツが舞台となっているのですが、むしろ主人公の様子なんかはそんな生まれ育った背景の特殊さよりも、今の…そして過去に学生だった私の想像できそうな、意外に普通の少年少女が主人公だなと感じる物語でした。

 しかし、後半、彼らを取り巻いている環境が彼らに牙をむいていくわけですが、それがその環境の特殊さだという風に帰結していいのかという部分も考えさせる作品で、ラストシーンの主人公の表情も含めて圧巻の内容でしたね。ただ、個人的にこの邦題は全然好きじゃないダメな邦題だと思います。

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9.「ひかりの歌」

 有名俳優も出ないし、漫画原作でもないというザ・ミニシアター系邦画という感じの本作。同じく邦画の「愛がなんだ」とどちらをランクインさせようか悩みに悩んだ末に、「俺、会社を辞めたら杏仁豆腐も出すうどん屋やるんだ…」という将来プランを明確化させてくれた分の差でこちらの作品に軍配を上げる結果となりました。「愛がなんだ」のナカハラ君よ…スマン。ほんとにスマン。

 4章立てで4人の女性の人生というか日常を描いた作品ですが、ほんとに普通の日常が流れていくだけという作品で、とにかく見てくれとしか言いようのない、非常に言語化が難しい作品ですが、まあとにかく描かれるシーンの一つ一つが何か引っかかりがあるので、やっぱりとにかく見てくれという結論になりました。

 あと、監督の舞台挨拶付きの上映会で非常に面白い裏話を色々聞けた(例:登場する人のほとんどは実際にそこに住んでいる人)りと、そういう部分も良かったです。

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10.「リアム16歳、はじめての学校」

 順当なら「愛がなんだ」がこの枠に入るべきなのですが、自分の中で10位になる映画かというとそれはそれで違う訳で、仮に「ひかりの歌」がなければ9位になるのは「愛がなんだ」という、ちょっとめんどくさい枠なのです10位というやつは。そんな10位の説明はともかく、この「リアム16歳、はじめての学校」もそんなめんどくさい枠にふさわしい、ちょっとめんどくさい映画だったりします。

 生まれてから一切学校というものに通ってこず、家族(主に母)としか触れあって主人公のリアム君が、大学入試資格を得るための試験会場として行った学校で出会った女学生に恋をして…という一見ボーイ・ミーツ・ガール&ワールドのお話ですが、まあリアム君含めて登場人物が大体くせ者というお話で、なかなかにめんどくさい。

 しかし、そのめんどくささを吹き飛ばすぐらいポップなセンスがドキューンと私にはまって、不動の第10位と相成った訳です。

 

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 そのほかに個人的に好きなのは「ワイルドストーム」「天国でまた会おう」「イップマン外伝 マスターZ」「愛がなんだ」「スノー・ロワイヤル」あたりですかね。

 

 

 映画祭や旧作のリバイバル上映だと、イ・チャンドンの「ペパーミント・キャンディー」や「オアシス」や、アジアン映画祭の「G殺」「みじめな人」、イタリア映画祭だと「月を買った男」「アルマジロの予言」などが良かったですが、特によかったのがイタリア映画祭で見た「私が神」が特によかったなと。

 「いつだってやめられる」シリーズのエドアルド・レオが主演を務める本作。彼らしいダメな男がアイデア一発で一念発起してという両津勘吉っぽさ全開のコメディ映画で、イタリア映画らしい様々な現代社会への皮肉もありつつ、楽しくも考えさせられる作品に仕上がっていたので、是非日本公開してほしいなと思う作品でした。

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 ということで、こんな感じの2019年上半期でしたが、果たして下半期はどのような感じになるのか。あまり映画ばっかり見てない下半期にしたいものですが…。