俺と「コンテイジョン」

コンテイジョンをMOVIXココエ尼崎で見てきたよ。


映画を見る前の私「どうせウィルスに感染してみんながパニックになるんなら、ついでにゾンビになればいいのに」
映画を見た後の私「ソダーバーグ監督、見る前に舐めた印象持ってて申し訳ありませんでした!(土下座)」


確かにゾンビは全く出てはこないけど、私がゾンビ映画に求めている要素の8割方は網羅されている素晴らしい映画でした。



多くのゾンビ映画の基本なフォーマットとしては、人間が徐々にゾンビに駆逐されていく(もしくは人間がゾンビに逆襲を図ろうとする)「ゾンビVS人間」を描いた部分と、極限状態に置かれた人々が限定的になった資源(食料、水)やインフラ(安全に住める場)を巡って争い始めたり、閉塞的な状況を打開するための方策を巡って対立し始める「人間VS人間」を描いた部分の二つの構造で構成されていると思ってます。前者はゾンビの頭がショットガンで吹っ飛んだり、逆に嫌なアイツがゾンビに内蔵食われたりして、それはそれで凄い「ヒャッハー!」ってガッツポーズしたくなる要素なのですが、結局の所ゾンビはあくまでゾンビらしく本能のままに人を追いかけるだけなので、そこにドラマは発生しにくい訳です。だからこそ、後者の要素である「極限状態に置かれた立場の人々の様子」をしっかり描いてもらってこそ、ゾンビ映画の面白さが出てくるのじゃないかなと個人的には思うわけです。


じゃあ、本作はそこの所がどうゾンビ映画的なのか思いつくままに列記していくと、


・突発的に発生し、物凄い勢いでウィルの感染が広がっていく前半部
これは『ゾンビ』やリメイク版『ドーン・オブ・ザ・デッド』の序盤のシーン、突如としてよみがえった死者達に右往左往する人類の様子を描いた部分を髣髴とさせる。もちろんゾンビ映画の方が直接的な描写が多い分影響の広がり方の途方も無い感じなどは分かりやすいが、気づかないうちに静かに感染が広がっていく様子なんかはコチラの映画も相当怖くて、感染→発症後の様子もホラー映画的な描写が多いなと思ったり。
あと、主要人物になるであろう役者さんも容赦なくウィルスに感染させて、かつあっけなく退場させてしまうあたりも、ウィルスの持つ無差別性、容赦なさに繋がっていて、この映画が現実と地続きになっている作品にだと思いました。


・ウィルスの恐ろしさが明らかになり、自分達だけは助かりたいと思う人々が次第に利己的な行動を取り始める中盤〜後半
他者と協力して難局を乗り越える選択よりも、とにかく自身(とその周辺の人々)の安全を確保することが第一の目的となるため、ウィルスの恐怖よりも人間同士での争い(町での略奪や暴動なんかがその象徴)の恐怖が徐々に広がっていく様子。こちらも「ゾンビ」の後半部分で描かれるショッピングセンターを巡っての争いや、『ナイト・オブ・ザ・リビングデット』での立てこもり描写(まさにマット・デイモン親子は難を逃れるために自分の家に立てこもる)なんかと通じる部分があるなと。特にウィルスの感染方法が主に他者との接触に寄る部分が大きいために、信頼できる身内以外に不信感を持つ流れは物凄く説得力があるなと思いました。
また、ジョージ・A・ロメロ御大が『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』で描いていた、「インターネットを通じて真偽もつかない情報が拡散していく様子」は、本作でさらに重要な要素となっており、ジュード・ロウ演じるフリージャーナリスト(前歯が印象的)が政府に対する不信感を増大させていき、結果として人対人の対立を煽る一員となる流れは、3.11を経験した我々にとっても物凄いリアリティのある描写だなと思いました。


・映画全体から漂うそこはかとない終末感
ゾンビ映画でゾンビに感染した人々は人ではないモノとして死後(ゾンビとしての活動停止後)は取り扱われ、そこには死者に対する畏怖や敬意なんかは一切存在しないわけです。本作での感染者が死後淡々と処分されていく様子もそれに通じるものがあり、一人の人間というよりもある主の有害廃棄物を扱うかのように淡々と処分していく様子、しかも見ている我々ですらその事実を素直に受け入れていく演出の上手さに、個人的に物凄い終末感を感じました。
あとは、道路がごみで徐々に埋め尽くされていく様子。コレを見るとホントに「あぁ、世界が終っていくんだなぁ」と毎回思ったりしてます。


と、物語の骨格的にはゾンビ映画の王道との共通点が多い本作ですが、本作を素晴らしいの作品に仕上げているのはそれらの部分ではなく、細部まで練られたリアリティのある描写の数々と、群像劇が生むある種のもどかしさの妙なのかなと思います。特に、明確な方向に物語が収斂せずいくつかの描写は見ているコチラが投げっぱなしじゃない?と感じる点こそ、この映画があくまでも現実の延長線上にあり単なるドラマじゃないんだよという点を見てる側に印象付ける効果を生んでいると思いました。
物語的な爽快感よりも見ていて色々考えたくなる映画なので、そういう映画が好きな人にオススメ。あとゾンビ映画が好きな人にもオススメ!

(この映画を見てたら群像劇をベースにしたゾンビ映画を見てみたいなぁと思って見たり…)