俺と「家族を想うとき」

ケン・ローチの新作「家族を想うとき」を見ました。

監督の前作「わたしは、ダニエル・ブレイク」同様に現代社会に対するかなり痛烈な批判が込められた非常に重いテーマの作品であり、個人の善意ではどうしようもなくなってしまった現代社会というシステムが生み出した地獄を描いた作品でした。

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俺と2019年下半期の映画

2019年の12月の初頭のある晴れた寒い日。

 

「これでよしっ…と」

「あれ、トニー何してるの?」

「やあ、フィル。ちょっと張り紙をね。」

「なになに…”本年の営業は終了しました。来年の営業開始日は未定です。”ってこれどういうことよ!」

「えっ、書いてある通りだよ。」

「いや、それは分かるんだけど、まだ12月になったばっかりなのに今年の営業が終わるって早すぎない?」

「ああ、いや今年はもういい映画を見終わった感があったので、もう本業の方は店じまいでいいかなと。」

「本業?」

「いや、映画鑑賞が本業で仕事は片手間でやってるから…。」

「おっ、おう…。いやしかし、映画の方もまだ1ヶ月くらいはあるから店じまいするにはちょっと早すぎるのでは?」

「まあ、下半期はもうベスト10くらい選べる作品は見たし、こっから先はサッカーでいえばロスタイム、プロ野球でいえば消化試合、仕事でいえば開店休業といった感じだからね。」

「下半期だけでも1/6残ってて消化試合とか、暗黒時代の〇〇じゃあるまいし...。とはいえ、じゃあそこまで言うならそのベスト10を聞かせてもらおうじゃないの。」

 

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俺と「守護教師」

残暑が厳しいある夏の昼下がり…。

 

「やあ、マイク。相変わらず暑いね。」

「久しぶりだねフィル。僕に用ということはまた映画の件かな。」

「察しが良いね。最近、韓国映画にハマってね。で、ある俳優の主演作品を見に行こうか迷ってて、君に相談しようかと思ってさ。」

「ほう。で、その俳優とは?」

「マ・ドンソクさ。」

「あの、一見するとその筋の人としか思えないような強面の顔面力とプロレスラーと言っても通じるような太すぎる二の腕がきらめく良すぎるガタイからは想像もつかないようなコミカルな役柄も非常によく似合う愛称マブリーことマ・ドンソクか…」

 

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俺と「よこがお」

深田晃司監督の「よこがお」を見てきました。

同じく筒井真理子が出演している「淵に立つ」以来の深田監督作でしたが、相も変わらず何とも言えない不穏さ、いい意味でのおさまりの悪さが印象的な作品でしたが、それ以上に主演の筒井真理子の圧倒的な存在感と、それに負けず劣らずの存在感を見せた市川実日子との駆け引きがとても印象的な作品でした。

 

筒井真理子演じる市子が主人公の本作。彼女が訪問看護を行っていた大石家で起きたある事件と、その大石家の娘である基子(市川実日子)の市子に対する秘めた愛情が徐々に歪んだ思いに変化し市子の人生を狂わせていくという物語と、その基子がリサとして池松壮亮演じる米田に近づいていくという物語が入り混じり、それに加えて夢のような非現実の演出も加わって、物語の筋自体はシンプルながらどこかとっつきにくい独特の雰囲気を持つ作品でした。

思い返してみれば、「淵に立つ」もある家族に起きた大きな変化を軸にした物語ながら、その核心である浅野忠信演じる八坂のキャラクターの掴みどころのなさにどこか揺らぎのような不安定さの印象が強い作品でしたが、それと比較すると大分わかりやすい、寓話というよりも地に足ついた感じがする作品でしたね。

また、脇を固める役者陣もこれぞといったキャスティングで、久々に濡れ場俳優の本領発揮していた池松壮亮や、筒井真理子との微妙な関係が似合いすぎる吹越満、あとどこかふてぶてしさを感じる吹越満の息子役の子まで、痒いところに手が届くようなキャスティングも流石でした。

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俺と2019年上半期の映画

 今年も半年が過ぎ、年号が平成から令和に変わったり、映画料金がほとんどの劇場で上がったりと色々あったりなかったりですが、なんだかんだでいつも以上に映画館で映画を見てしまったので、久方ぶりに上半期に見た映画を振り返ってみたいと思います。

 

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俺と「2018年の映画」

実は大みそかの今日も映画を見に行く予定ですが、まあ、それはそれ、コレはコレということで2018年の映画を振り返っていきましょう。

・劇場鑑賞作品数
 新作映画:174本(2017年177本)
 その他映画:23本(2017年26本)
  計:197本(2017年203本)

・劇場鑑賞回数
 新作映画:174回(2017年178回)
 その他映画:23回(2017年27回)
  計:197回(2017年205回)

去年から比べると微減といった感じの鑑賞本数でしたが、まあ今年も映画以外のことが忙しかったりというのもありますが、TOHOフリーパスを去年は11月下旬に発行したのに対して今年は年末に発行したのもあって、その差がこれかなという感じですね。そんなTOHOフリーパスは来年の12月末で交換が終わってしまいますが、残り6,000マイル弱を私は来年溜めることができるのか!こうご期待。(たぶん溜めそう)
ちなみに、ここ数年まとめてない映画のパンフレット事情ですが、今年は遂に50冊を切る程度に購入を抑えたりしてました。こちら主に保管場所の問題が年々大きくなってるためなんですが、来年は今年と同程度かそれ以下に抑えたいと思っております。
どうでもいい話はそのくらいにしておいて、2018年に見た良かった作品10選の発表です。


1.ホン・サンス特集上映「それから」「夜の浜辺でひとり」「正しい日 間違えた日」

前回日本公開されたのが2014年なので、4年に1度のオリンピックイヤー的周期で公開されているかもしれないホン・サンス作品ですが、今年はもう4年も待たされたというホン・サンス分の不足も相まってぶっちぎり、怒涛、圧倒的、別格で1位ということになりました。去年の2位に選んだ「春の夢」もホン・サンス力(ホン・サンスりょく)を感じさせてくれる作品だったというのが私的評価のポイントだったのですが、もう本家本元は圧倒的にホン・サンス力を感じる仕上がりで、「これを待ってたんや…」と映画を見ながら満足したのでした。なお、特集上映中の「クレアのカメラ」もホン・サンス力を十二分に感じさせてくれましたが、映画としては他三本と比べるとかなり落ちる内容だったので、惜しくもランク外ということになりました。
今回は彼のプライベートのパートナーでもあるキム・ミニが出演してる4作品でしたが、いつも通り映画関係者的なちょっとスノッブ感のある男と女が出会って、酒飲みながらグダグダして、男はダメ男で、謎ズームがあって…という、ホン・サンスとしか言いようのない世界観で100ホン・サンス点でした。ただ、ホン・サンスも地味にアップデートされており、今回は酒以外のツールとしてコーヒーが登場したのが印象的で、特に「正しい日 間違えた日」でコーヒー豆の選別をさせられるシーンは彼のさらなる進化を感じさせる内容でした。


2.「スリー・ビルボード

今年のアカデミー賞関連作の中でも群を抜いて印象的だったのは本作でした。この世界のどこかに居そうな絶妙な説得力のある登場人物ながら印象的な人々、こちらの予想を一回りも二回りも上回ってくる印象的なストーリー展開、様々な解釈が残り余韻に浸れるラストと、映画を見てる醍醐味にあふれる作品でした。アカデミー賞発表前に見れた映画でもあり、「これがアカデミー作品賞でいいよ」と思う作品でしたが、ノミネートされた作品を全部見た後でもその思いは変わらなかったですな。


3.「判決、ふたつの希望

こちらもアカミー賞関連の作品で、外国語映画賞にノミネートされながらも惜しくも受賞は逃したレバノン映画です。レバノン人とパレスチナ難民の男性が些細なトラブルをめぐって対立し、それがやがて法廷へと舞台を移し…というお話で、裁判が進むにつれて様々な事実が明らかになっていくという展開は、我々の触れる事実は表面的で記号的な内容にすぎないということを強烈に印象付けた作品でした。ただ、この作品邦題に希望のに文字が入っていることで分かるように、きちんと救いのあるラストが待っていて良かったです。あと、結構重たい題材を扱っているにもかかわらず、主な舞台である法廷でのやり取りは法廷劇、会話劇としてもとても面白いので社会派映画という側面だけでなく、エンタメとしてもきっちり楽しめる映画でした。


4.「ファントム・スレッド

世間的な評判の高さを分かりつつも、個人的にその年のベスト的作品かと言われると「ちょっとね…」と思っていたポール・トーマス・アンダーソンの作品ですが、この作品については文句なし、俺も大好き!と声を大にして言える作品でした。ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープス、レスリー・マンヴィル三者の演技のアンサンブルが素晴らしくて、同じ風景なのに毎回差異が楽しめる朝食のシーンなんかは特に印象的でした。あとは、アスパラとキノコ!


5.「1987、ある闘いの真実

ホン・サンスは偏愛という名の別格なので置いておいて、それを抜きにしても今年も韓国映画は素晴らしかった。韓国映画だけで余裕でベスト10を組めるぐらい豊作な年でしたが、特にその中でもこの作品はキャスト・ストーリー・演出どれをとっても現代韓国映画の集大成と言える作品だと思える内容でした。あくまでも市井の人、普通の人が紡いでいくという物語が素晴らしくて、どのキャストも主人公だよと言いたくなる充実っぷりでした。また、今年公開された「タクシー運転手」と同じ年に見れたことや、私の大好きな韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」との関連を感じる作品でもありました。


6.「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル


本作も本年のアカデミー賞関連作で、こちらもとてもインパクトが強い作品でした。何せ、登場人物のすべてが濃い、一人一人見るだけでも胸焼けしそうな濃さ…なんだけど。1本の作品としてみると、もっと見せてくれ!となるから不思議ですね。助演女優賞を撮ったトーニャの母ラヴォナを演じたアリソン・ジャネイはこの佇まいだけで100点なんだけど、他にも名言しか残さない俺たちのショーンなど、トーニャの強烈な個性が薄まるんじゃないかと思える脇役たちが良かったです。そんなキャラたちのやり取りをラストまで(自分の世界の外の話だとして)楽しんでいたのに、映画を見終わると自分の世界の外の話なのかなと爪痕を残してくる部分もとても良かったし、あとは使われている音楽がバッド・カンパニーフォリナー、ハート等々最高でしたね。


7.「怪怪怪怪物!」

近年は個人的にコレだ!というホラー映画がなかったこともあって、ジャンルそのものに以前ほどの熱量がなくなったホラー映画ですが、今年は台湾映画のこの作品にガツンとやられましたね。ムカつくやつがとにかくムカつくというフラストレーションを後半まで延々と持続しつつそれが一挙に爆発するのかと思いきや、ラストに非常に台湾映画らしい美しいシーンを入れ込んでくるので、こちらの予想を一枚も二枚も上回ってくる映画でした。ホラー映画好きな人にも台湾映画好きな人にもおススメしたい傑作!


8.「犬猿

吉田恵補監督と言えば今年はエロもバイオレンスも人間の情念とが混然一体となった彼の集大成的な「愛しのアイリーン」も良かったですが、それよりも「家族ってそんなに良いものだけじゃないよ!」というメッセージにガッテンしまくった「犬猿」が非常に良かったです。この映画は映画本編の内容も納得の出来だったのですが、それとともにオープニングの仕掛けが凝っていて、映画館で見る価値があった映画でしたよ。


9.「グッバイ・シングル 

上の作品で家族をディスった手前というのは冗談ですが、同じく家族を描いたこの作品もコメディタッチながら良い作品でした。今年家族を描いた作品と言えば何といってもカンヌ映画祭パルム・ドールに輝いた「万引き家族」がありますが、この映画も同じく家族の形、血縁と家族という要素を問いかけるような作品でとても良かったです。あとは、愛称マブリーことマ・ドンソクが主演した「犯罪都市」や「ファイティン!」をおさえて、今年一番マブリーだった作品だということも言及しておきたいと思います。


10.「彼の見つめる先に」

今年も様々な愛の映画、特に同性愛が描かれる映画がありましたが、その中でも個人的に一番響いたのがブラジルからやってきたこの作品です。もちろん映画かれるのは男同士の愛情なんですが、それが特別なものというよりも、青春時代の中の1ページ的なもの、この映画の中では同性愛と異性愛は等価なものとして描かれていたのが非常に印象的でした。また、それ以外にも主人公が抱える障害の部分もあくまで日常の一つ、彼のキャラクターの一つとして描かれていて、私たちが特別だと感じる何かが特別じゃないように描かれている空気感が素晴らしかったですね。キャスト陣だと、この二人の親友であるジョバンナの存在がこの映画を体現しているような存在で、ホントに素晴らしかったです。


以上、振り返ってみるとこんな感じのベスト10になりました。ベスト10なのに10本以上選んでますが、竜造寺四天王も5人いるので許してください!今年も10選するのにかなり悩みまくったので、明日あたりは別の作品が選ばれるかもしれませんが、とりあえずこの10選ということにしておきましょう。


さて、今年も劇場公開された作品以外にも映画祭などでも何本か作品を見ましたが、これもとても良かった作品が多いので、こちらも何本か紹介しておきます。

大阪アジアン映画祭で見た作品だと台湾映画の「血観音」がとても良かったです。親子の愛憎、過去と現在を巧みに織り交ぜたストーリーは相変わらずヤン・ヤーチェスゲエと思う内容でした。また、近年個人的に注目しているフィリピン映画だと「ミスターとミセス・クルス」は、なかなか日本では劇場公開されなさそうなストレートなラブロマンスですが、楽しい作品でしたね。
イタリア映画祭では「これが私の人生設計」に続くパオラ・コルテッレージ主演×リッカルド・ミラーニ監督コンビの「環状線の猫のように」は相変わらず爆笑必死の社会風刺も効いたコメディ映画だったし、「おとなの事情」のパオロ・ジェノヴェーゼ監督の最新作「ザ・プレイス」も巧みなストーリーテリングにぐいぐいひかれていく作品でしたが、なんといっても劇場公開もされた三部作の完結編「いつだってやめられるー名誉学位が素晴らしかったです。舞台となる刑務所の脱獄作戦はまさにコメディ映画という最高に馬鹿馬鹿しい展開でしたが、それ以上に三部作を見てきた人へのご褒美と言わんばかりに過去作と本作がつながっていく展開は大団円!という言葉がふさわしい映画でした。
今年久しぶりに参加したラテンビート映画祭では「相続人」「カルメン&ロラ」の二作品しか見れませんでしたが、このどちらも素晴らしかったですね。片や両親の財産で生活していた老齢の女性、片やロマの保守的なコミュニティで育ちながら、その息苦しさから外へのあこがれがある若く賢い女性、一見すると案の接点もないこの二人の別々の物語、映画が、テーマとしては繋がっている部分があってこの二作をセットで見れたのはとても良かったなと。どちらも日本で劇場公開されてほしいと思う作品でした。
そして、大阪韓国映画祭で「ベテラン」とファン・ジョンミンのトークショーに当選したのは今年一年の運を使い切った感がありますが、映画のキャラクター同様に全身から発散されるいい人オーラと、芯の一本と負った役者としての思いが印象的で、今後もこの人の選ぶ作品なら間違いないと感じさせるような器の大きい人でした。


とまあ、さっくり考えるとこんな感じの2018年でした。という訳で2019年もぼちぼち映画を見たいと思いますね。では皆さんもよいお年を!