俺と「イル・ディーヴォ‐魔王と呼ばれた男‐」

シネ・リーブル梅田で開催されてた三大映画祭(カンヌ・ベルリン・ベネチアの三つの映画祭)の上映作品「イル・ディーヴォ‐魔王と呼ばれた男‐」を見てきましたよ。この三大映画祭の上映作品は他にも面白いのが上映されてまして、今年の上旬やってた「未公開なんちゃら」とは流石格が違う!と思ったりしたのですが、結論から言うとこの「イル・ディーヴォ‐魔王と呼ばれた男‐」は結構寝ました。(でも他の作品は面白いので、三大映画祭自体は超オススメです。)
「眠くなるような映画の感想書くなら、他にやることあるだろ!」と言う突っ込みはさておき、この映画が眠くなった要因として、「舞台となってるイタリア政界の知識があまりにも私に無さすぎた…」のかなと思い(他にも眠くなる要素はある)、ネットでごそごそイタリア政界を調べてるとこれが意外に面白い。そういや、高校時代は世界史のテストに出る所より、テストに出そうにもないショウモナイ知識とかを必死で覚えてたな…。「フリードリッヒ1世ってバルバロッサなんてたいそうな渾名を付けてもらっておいて、第三回十字軍に参戦する途中の川で溺れ死んでやんの!」という、もの凄くどうでもいい話題で盛り上がった、高校時代の友人S君は今も元気にしてるのだろうか…。
と言うわけで本稿は、「付け焼刃的にネットで調べた知識を自分なりにまとめて、映画をより深く理解した気がするけど気のせいだよな!(寝たしな)」という、いつも通りの自己満足的な記事です。


以下、思いつくままにイル・ディーヴォの登場人物と用語のテキトーな解説。


ジュリオ・アンドレオッティ(wikipedia)
言わずもがなのこの映画の主人公で、演じてる俳優はトニ・セルヴィッロ。彼は今年公開された「ゴモラ」で産廃屋のマフィアを演じてるんですが、あまりの違いすぎに正直驚いた。(とうか気づいたのは家でこの映画について調べ始めてからと言うボンクラ)まあ、そんな御託はさておき、どんなに彼が頑張ったかは、画像を見れば一目瞭然ですよ!


(左がジュリオ・アンドレオッティ本人、右が海部俊樹


(劇中でトニ・セルヴィッロが演じるジュリオ・アンドレオッティ)


(で、これが素顔のトニ・セルヴィッロ。意外に面影があるかも)


これでトニ・セルヴィッロの凄さが皆さんに伝わっと思いますが、彼の演じるジュリオ・アンドレオッティはさらに凄いんですよ。何せ未だに存命(93歳)で、かつ現役の国会議員(終身上院議員)なのである。何なんだよ終身上院議員って。古代ローマかよ!(古代ローマ元老院の議員任期は終身)
そして、イタリアと言えば、「自動車」、「ファッション」と並んで主要産業の一角に挙げられる「マフィア」ですが、もちろんその「マフィア」ともばっちりつながってたらしいよ!
その、外見風貌から妖怪猫背ジジィと言ったほうがしっくり来る人物でありますし、映画でもどっちかと言うと首相官邸でデーンと構えているようなラスボスつというよりも、毎朝教会に行くこだけが生きがいで、奥さんの小言を聞き流しつつ自分だけの世界でひっそり葛藤してるおじいちゃんですが、その実績を調べてみるとタイトル通り魔王というあだ名で呼ばれるに相応しい爺さんですなぁ。


DC:キリスト教民主主義(wikipedia)
主人公が所属するイタリアの政党で、冷戦期のイタリアに常に与党にあったとのこと。こう書くと自民党っぽいなと思ったのですが、イタリアは多党制で常に連立を組んでるらしいので、パートナーに応じて党内の有力者がコロコロと変わっていくのです。なので、一見すると何で同じ党にいるの?って思うような人同士がくっついているんですよ。(主人公であるジュリオ・アンドレオッティと後述するアルド=モーロの関係とかね)
劇中で特に象徴的に感じるのは冒頭のジュリオ・アンドレオッティ官邸(だと思う)に、側近たちが集うシーン。その面々が政官財界の面々+宗教と、まさに清清しいほどの癒着!絵に描いたような悪役!まあ、癒着と汚職のやりすぎで、結局この党解党しちゃうんですけどね。
さて、このDCが政権の座から転落したのが1992年2月、その後解党するのが1994年1月なのですが、この間日本でも55年体制が崩壊した(自民党が政権党から退いた)第40回衆議院選挙とかあったりして、じつはこの流れは世界的なものだったのかもしれんね。(あんまりちゃんと調べてない)


アルド=モーロ(wikipedia)
1978年に左翼テロリスト組織「赤い旅団」にモーロが拉致され、開放と引き換えに旅団のメンバーの釈放を政府に要求しますが、その当時の首相が主人公であるアンドレオッティなのです。同党の盟友(なのかは知らんが同じ党の所属ではある)でもあるアンドレオッティとモーロですが、結局政界やバチカンをも巻き込んだ交渉も空しく彼は殺害されてしまいます。この事件はその後、「裏で実は、アンドレオッティとマフィアがつながってて…じゃねーのとか?」と色々調べてた記者がマフィアに暗殺されたりして、益々アンドレオッティのドス黒さを際立たせてくる内容になるのです…。
さて、何故アンドレオッティの暗躍が疑われるのかと言えば、ひとえにモーロとの政治思想の差によるものと言われています。DC党内では右派(要は親アメリカ)の代表格であったアンドレオッティに対して、イタリア共産党との提携を画策してたモーロ。(イタリアでの共産党人気は非常に高く、直前の選挙では34%の得票率を得ている)そんなモーロを党内右派の貴方が快く思っていたはずは無い!だから、黒幕は貴方ですねアンドレオッティさん。真実はひとつ!じっちゃんの名にかけて!…かどうかは分かりませんが、そういう風なことが公然と言われるぐらい、両者の思想の隔たりは大きかったようです。
また、ちょっと調べてみると劇中には登場しないモーロ夫人のエピソードがものすごく印象的な事件でもあるなと。こういう背景を知ってると、アンドレオッティの苦悩の部分の見え方がちょっと変わってくるのかもしれんね。

アルド・モーロ夫人逝く | La Chirico | イタたわ
http://lachirico.com/2010/07/23/roma-115/



・マフィアとバチカン
ヴァチカンと言えば映画の中では、少女に取り憑いた悪魔とバトルしたり、謎の秘密結社にコンクラーベを邪魔されたりと、大変な苦労を強いられてる組織ですが(映画知識に基づく個人的偏見)、この劇中のヴァチカンはそんな気苦労の多い組織というよりは、政界や財界・マフィアとがっちりつながった真っ黒な組織なのです。特にその象徴ともいえるのが、このポール・マルチンクス(wikipedia)。(ただし劇中で彼は登場しない)聖職者なのに目につく項目は、「暗殺」、「誘拐」、「マネーロンダリング」、「不正融資」…。えっと、どちらの黒社会の方でしょうか?ウィキペディアで使われてる画像も、どう見ても心優しい大司教と言うよりも、その筋の方(しかもかなりの大物)としか思えないですね。うん。そんな真っ黒な大物が辣腕を振るってた当時のバチカン。映画で悪魔祓いしてた方々も、自身の組織の中に居た悪魔のような存在には気づけなかったんでしょうな…。(上手いこと言ったつもり)そんな、暴虐非道の限りを尽くした悪の組織であるバチカン(誇張あり)ですが、暗殺とか誘拐の実働部隊ってのはやっぱりマフィアだったんでしょうね。いや、もちろんバチカンのスイス人衛兵隊の中でも、特に優秀なものが特殊なトレーニングを受けて、ローマ法王に仇成すものたちを密かに葬っていたのであった…。なんて、映画みたいな展開があったのかもしれませんが、やっぱりこういった暴力的なお仕事はその筋の方の専売特許というのが万国共通なのであります。
どちらかと言うとヤクザ屋さん同士の間でドンパチやってるイメージの強い日本の方々と違って、イタリアの方は平気で公権力に牙を剥きます。なんせ反マフィア派の要人であった判事二人を暗殺しちゃいます。しかもスタイリッシュに。(もちろん映画の中での演出で、実際はこんな感じでもはや戦争のよう…)
そんな、マフィアと公権力とのバトルの激しさの一旦は、前述の暗殺された二人の判事ジョヴァンニ・ファルコーネ(wikipedia)と、パオロ・ボルセリーノ(wikipedia)や、マフィア側のボスであったサルヴァトーレ・リイナ(wikipedia)、あとはコーサ・ノストラ(wikipedia)(一般にイメージされるマフィアの意、ここら辺の用語の定義がややこしい)のwikipediaを参照してみると、その壮絶さの一端がうかがい知れると思う。
しかし、ジュリオ・アンドレオッティといい、サルヴァトーレ・リイナといい、どちらも未だに存命(しかもリイナは獄中)というのが、「憎まれっ子、世に憚る」を体現した存在だと思ったり。


と、こんな感じでテスト前に必死で作った高校生の一夜漬けノートのような内容ですが、みんな良く分かったかな?
まあ、ここまで調べてみたものの、映画をもう一度見てみようという気にはならなかったので、たぶん私とこの監督さんとの相性が悪いんじゃないかな!