俺と「桐島、部活やめるってよ」

 「桐島、部活やめるってよ」を見てきました。普段は邦画をあんまり見に行かない私ですので(なので俳優さんや女優さんには物凄く疎い。まあこれは洋邦問わずですが…)、そもそも鑑賞予定に入ってなかった作品でした。でも全編高知ロケという情報を聞いて、「お盆に帰省したついでに、地元でロケした映画を見てロケ地回るのも良いかもな」と言った程度の気持ちで見に行ったら完璧にハマッテしまい、今のところ都合3回劇場で鑑賞しています。
 あんまり劇場で複数回鑑賞することってないのですが、魅かれたりするキャラクターや、グッと来るシーンは第一印象に基づいた部分が大きいような気がします。要は2回目の鑑賞でも同じキャラクターに感情移入したり、同じシーンでハイタッチしたくなるわけですよ。
 でも、この作品は第一印象で感じた部分よりも、初めての鑑賞では気づかなかった部分が2回目、3回目の鑑賞で私の心の中で大きくなっていく、そんな作品でした。

(いつものことですが、もの凄くネタバレしてますし、尚且つ私の妄想に基づく印象で語ってるので、先ずは一度鑑賞してみてください!)

あらすじ
「桐島、部活やめるらしいよ」「へー」


・はじめての桐島〜俺と前田君(映画部)

 どちらかというと、というか高校時代は思いっきり文化系の部活でした。しかも、その部活に全力を注ぐよりも、友人N達と「今月のBURRN!読んだか?」とか「○○のアルバム買ったわ、部室で聞こうぜ!」なんて生活を送っていた私。多分、映画内での立ち位置で一番近いのは、映画部の彼ら(しかも部室内でだべってる時限定)だったので、やっぱり主要人物の中では前田君(神木隆之介)の側に感情移入していくんですよ。(あと、私もゾンビ映画が大好きだからな!)
 特に何に熱中することも無く、ただ単に日々を無為にダラダラと過ごしていた学生時代…。そんな私の学生時代に比べて、大好きな映画に今持てるすべてのエネルギーを注ぎ込む前田君の眩しい事。それがどんなに他の人から見たら取るに足らないような事でも、大好きなことを気の合う仲間と作り上げていく、そんな時間が永遠に続けばいいのになぁ…、と思いながら、彼らの学生時代とは輝きは違うかもしれないけど、気の合う仲間と過ごしたあの頃をちょっと思い出したりしたのでした。
 そんな彼らのかけがえの無い時間が、まったく関係の無かった存在(桐島)が引き起こした出来事によって引き裂かれていく訳ですよ!それも、彼らと同じぐらいの情熱でバレーに打ち込んでいるからこそ、やりきれない思いを抱えてた男(久保:鈴木伸之)の(本人にとっては)何気の無い行動が引き金となって…。そんな情景を見ながら、「あー、やっぱりここでも彼らの思いは踏みにじられるのか…」と、胸が疼く様な気持ちになったのでした。「お前ら、もっとお互いのことを分かり合えよ!」って思わず心の中で叫んだね。(まあ、そんなんで分かり合えたら苦労はしないわけで…。)
 でも、その後に待ち構えていたのは、そんな私の安易な予想を超える、”他人の大事なものを容易く傷つけてしまうアイツ”や”熱意を持った人をあざ笑うようなアイツ”そして”彼の中で潰えた憧れの存在への気持ち”などの諸々の思いを、あの8mmカメラの中に昇華していく魔法のようなシーン。(そのシーンを一緒に作り上げてるのが、吹奏楽部の沢島さん(大後寿々花)の思いというのがさらに素晴らしい!)
 彼らの思いが作り上げた魔法のようなシーンを見て、「ゾンビ映画にここまで救われる日が来るなんて…、ほんとにゾンビ映画好きで良かったなぁ…」と、思わずジョージ・A・ロメロに感謝したくなったのでした。そして、今までに見たどのゾンビ映画よりも幸せな気持ちになりながら劇場を後にしたのでした。


 …でも、火曜日はもう一回あるんだよ!


・その後の桐島〜俺とヒロキ()

 さて、皆さんは「桐島、部活やめるってよ」の登場人物の中で誰が一番印象に残っていますか?私は、野球部のキャプテン(高橋周平)が物凄く印象に残っております。いやー、私の知り合いにも居たんですよ、あんな感じで野球が好きで好きでたまらない奴。多分、「世界最後の一日したい事は?」って質問をされて、何の躊躇も無く「野球」って答えちゃうぐらいの野球バカなんですよ彼は!(少なくとも私の中では)そして、劇中ではヒロキの「いつまで続けるんですか?」と言う質問に、「ドラフトまでかな…」なんて答えてますが、キャプテンがドラフトに引っかかる事は無いし、ドラフトが終わろうが、大学に行こうが、就職しようが、結婚しようが、子供が生まれようが、キャプテンは野球を続けるんですよ。だって野球が好きでしょうがないから!
 そんなキャプテンがこの映画の中で関わる唯一のキャラクターと言えば、もちろんヒロキ(東出昌大)ですね。背が高い、イケメン、可愛い彼女が居る、スポーツ万能、(多分成績も優秀…)と書いてる私とはホントムカつく似ても似つかないような存在。正直、1回目に見たときはあまり感情移入できなかったので、2回目の火曜日よりも、1回目の火曜日のほうがクライマックスだよなと思ってました。(正直、2回目の火曜日はエピローグ的なおまけだと感じてた…)
 でも、そんなヒロキにもモヤモヤしている感情(野球部への若干の未練)があって、その部分では実は我々と変わらない存在だと思ったのです。私的な妄想ですが、恐らくは夏の大会かなんかでヒロキが活躍したのにも関わらず、チームはコールド負けしたんだと思います。そこで、”なんでも出来る(特に学校内の小さな世界では)”と思ってた自分が、自分の力だけではどうしようも出来ない…、という部分を悟って諦めてしまったんじゃないだろうか。だけど、彼は野球自体を嫌いになってしまった訳ではなく、未だに野球部の鞄を使い続けてるんだと思う。だからこそ、”どうしようも出来ない”っていうことが分かっているのに、それでも野球を続けてるキャプテンに徐々に惹かれていったんだと思ってます。そんなヒロキが好きなことへの熱意を直向に持ち続けてるもう一人の男に出会います。それが前田君です。


 普通の生活を送ってるだけと決して交わることの無かった二人(そして多分、今後もふたりは以前どおりの関係だと思う)。でも、そんなふたりが交わっただけでも奇跡のような瞬間だと思いますが、それ以上に、世界を変えたのはキャプテンと前田君という二人の凡人が見せた”好きなことに対する直向な情熱”だったという事実に、「この世界は確かにクソみたいな世界かもしれないけど、まんざら捨てたもんじゃないよな」という気持ちになりながら、劇場を後にしたのでした。




 …と、ここまでが私の「桐島、部活やめるってよ」です。多分、見た人各々に自分の「桐島、部活やめるってよ」があると思います。なので、「俺の桐島、あの後ヒロキの電話に出たよ!」とか、「キャプテン、育成枠でドラフト引っかかったよ!」とか「キャプテン、こないだ大学デビューしてた…」とか、貴方の「桐島、部活やめるってよ」をこっそり私に教えてくださると幸いです。






ちょっとだけ補足(と言う名の妄想)
 上にも書きましたが、この映画の中で人の心を動かすのは、結果じゃなくて「好きなものに対する真摯な姿勢」だと思います。なので、実果(バトミントン部)は風助(バレー部)に惹かれ、かすみ(バトミントン部)は真摯な人の思いを嘲笑う沙奈に憤る訳ですよ。ということは、今回の映画ではヒロキの心を動かすことが出来なかった沢島さんも、吹奏楽を愛するその真摯な姿勢があれば、いつか誰かの心を動かす事が出来るんじゃないだろうか…。