俺と「タイピスト!」

 「タイピスト!」見てきました。ポップでキュートな予告編の印象とは一変して(モチロン、ポップでキュートな面もいっぱいある)、映画自体はスポ根モノと言っていいような熱い作品でした。「お前が打ち込んでいいのはタイプライターのキーだけだ!」と言わんばかりに熱血指導するルイ(ロマン・デュリス)と、そんなルイのある種理不尽な指導を受けながらもタイピストとしての才能を発揮していくローズ(デボラ・フラン)。こんな二人の関係にニヤニヤしつつ、ある種お約束と言える安心感のある展開に身を任せた、気持ちの良い2時間でした。
 ただ、21世紀を生きる私にとってタイプライターがなじみない訳で、クライマックスであるタイプライター早打ち大会を、「ホントにこんなに凄く盛り上がった大会何だろうか…」なんてちょっと思ったりしたのでした。しかし、こないだ全然関係ないある本を読んでると唐突に現れるタイプライター大会の文字。しかもその影響が意外に身近ところにあったりして「タイプライター凄い!」と感じたので、タイプライターについてアレコレ調べりしたのでした。
 と言う訳で、今回は映画の感想よりも「これさえ知っとけば、貴方もタイピストの内容が3%増し位で楽しくなるかも知れない」タイプライターの生半可な豆知識を紹介しましょう!


QWERTY配列のキーボードは、何種類もあったキーボードのうちの1つだったに過ぎない。1860年代に、このキーボードがタイプライター製造上のちょっとした理由で採用された。ついで、1882年に、シンシナティ氏でタイプライター・速記学院を開設したロングリー氏によって販売戦略上の理由で採用された。そして、ロングリー氏の愛弟子であったフランク・マッグリンが、派手に宣伝された1888年のタイピング競技会で非QWERTY配列のキーボードの使い手であったルイ・トリーブを打ち負かしたことで定着した。(ジャレッド・ダイヤモンド「銃・病原菌・鉄」より)

 私がこの記事を書いてるキーボードの配列もモチロンQWERTY配列なのですが、この配列が市民権を得るためにそんな裏話があったとは…。この時にルイ・トリーブが勝利していれば、その後のキーボード配列も変わってたかもしれませんね。ただし、この1888年以降の大会でQWERTY配列以外のキーボードを使った人が優勝しており、実際にQWERTY配列が多数派になったのは他の事情*1のようですが、タイプライター大会の影響の一端が実生活に現れてるって考えると面白いですね。
 こんな感じで、その後の歴史にすらちょっとした影響を与えるタイプライター早打ち大会が、その当時盛り上がらなかった訳があるだろうか(いやない)。そんな注目を集める大会でローズは優勝し、一躍時の人としてタイプライター会社の広告塔となる訳ですが、自社の製品の優位性を公の競技で示すって言うのは、例えばちょっと前にあったSPEEDO社の水着レーザー・レーサーを着た人が世界新記録を連発したことなんかも想起したりしましたね。水泳もタイプライター早打ちもどちらもシンプルにスピードを争ってるって言う点も、なんか関連性が高いような気がしますよ。




 劇中でもタイプライターを用いた曲が登場しますが、タイプライターを使った音楽と言えば、ルロイ・アンダーソンの「タイプライター」じゃないでしょうかね。軽快なタイプライターのタイプ音とときおり挟むチーンと言うベルの音(昔のタイプライターは用紙が端に近づいてきたことを知らせるために、ベルをが鳴っていたそうです)が非常に印象的ですよね。上の動画を見ても分かるように、コンサートなどでは実際にタイプライターを打って演奏しており、非常にコミカルで楽しいのです。でも、このコンサートをルイが見たら「何故、1本指なのだ!!」と激怒するかもしれませんね。(なお、上記以外の動画もいくつか見ましたが全て1本指奏法だったことを併せて伝えておきましょう。)
 さて、劇中でローズはオリジナルの1本指タイピングを修正しようとするルイの猛烈な指導を受ける訳ですが、パンフレットによるとローズ役のフランソワ・デボラさんもローズ並みの厳しい特訓を受けたようで、

タイプ早打ち大会の映像、タイピングと用紙の交換テクニックを記した教本、アメリ海兵隊の秘書が3回の動きで用紙を交換する方法を教えるビデオが渡され、1日2、3時間の練習が3ヶ月間続いた。(パンフレットより)

 やっぱりこの映画、見えないところの努力で成り立ってるスポ根映画だなぁ、なんて感じたりしたのでした。