俺と「真夜中のゆりかご」

 「真夜中のゆりかご」見てきました。一見すると、地味で暗くて重い映画ですが、徐々にコチラの感情というか価値観が揺さぶられてくる内容の映画でとても面白かったです。


 さて、この映画を見ていてシチュエーション的に似ているなーと思った作品に、「ラブストーリーズ」という今年見た作品があります。突然の息子の死により別れてしまった1組の男女(ジェシカ・チャスティンとジェームズ・マカヴォイ)の様子を、「コナーの涙」「エリナーの愛情」という2作品で描いてる作品です。(見るときはコナー→エリナーの順番で見ることを推奨!)
 「ラブストーリーズ」ではショックな出来事の受け止め方の男女での違いみたいなことが描かれてるんですが、本作で描かれてる二組の男女の行動に共通する部分を感じたりしたのです。そして、この作品だとアンドレアスとアナの二人とトリスタンとサネはコナーとエリナーと同じ境遇(息子を失う)に出会うのですが、全く境遇も性格もそして作品も異なる3組の男女なのに、もちろん、それでも男同士・女同士の行動の根底にあるような部分は結構似ているなと思いました。
 この映画であれば、息子の死という境遇を比較的あっさり受け入れ、息子が死んだ悲しみよりもそれが引き起こすことに対処(アンドレアスはアナのことを、トリスタンは自分自身のこと)する男二人。「ラブストーリーズ」でも同じくコナー早々に息子の居ない生活に順応するのだ。そんな男たちとは対照的に、息子を失ったという事実を受け入れられない女たち(この中では、サネは少しニュアンスが異なるのだが…)。彼女たちは、まるでその場所に取り残されたように、もしくはその子達を忘れないように必死にその場所に留まろうとして、どこか虚ろで儚げに生きている、いや彼女たちの中では彼女はもう生きていない(魂が抜けた抜け殻のようなもの)のかも知れない。 などと、男の私は思ったりしたのでした。
 もちろん、男も大切なものを失った悲しみを感じていない訳ではないと思う*1のですが、ここで描かれる男女の姿はあまりも対照的すぎるのだ。


 しかし、この物語は私も、主人公のアンドレアスも予期にしない方向に進んでいく…。


 アンドレアスの気持ちは徐々に変わってゆく、結果的にアレクサンダーだけでなくアナをも失ってしまったことにより、彼のアイデンティティ(多分、彼はアナのために生きている部分があったと思う)が揺らいでいき、自分としては正しいハズだと思っていたアレクサンダーとソーフスを取り換えることの、その正しさすら分からなくなっていたんじゃないだろうか。
 ただ、最終的にアンドレアスを決心させたのは、アレクサンダーが知った予想外の出来事である。もちろん映画を見ている我々にも、(兆しはあったにせよ)予想外の出来事だったのだが、彼にとってはアイデンティティの喪失を確定的にする出来事であり、ココで初めてアレクサンダーの死に向き合うことが出来たんじゃないかな私は思ったりしたのだ。


 エンドロールは揺らぐ水面(だと思う)というちょっと変わった情景になっていますが、風によって揺らぐ水面が、一面的な事実で容易に揺らいでしまう我々の心情を表してるのかな、なんて思う映画でした。

*1:例えば、アンドレアスの相棒シモンが酒に溺れる姿。