俺と「ムカデ人間」

前回の「水曜日のエミリア」の余韻を台無しにするかのように、「ムカデ人間」を続けて鑑賞しましたよ。
劇場は満席だと思われる混雑具合。しかも大半が男性客(私の座った列は全員男)なので、ある種の異様な熱気に包まれてました。
で、当の映画のほうですが多くの方々が言及されているように、すごく真っ当なホラームービーで良かったです。


そもそもですよ、うら若きおねえちゃん二人組みが、
テキサスの片田舎で迷ったら、レザーフェイスさんがダッシュで来て解体されて肉屋で売りに出されるし、
スロバキアの片田舎で迷ったら、殺人オークションにかけられてるだろうから、
ドイツの片田舎で迷ってしまって、キ○ガイ博士にムカデ人間にされてもしょうがないのである。


(他の映画に出ても真っ先に犠牲になるであろう二人)


そして、こういう映画の魅力の70%以上は敵役のカリスマ性によって決まると思ってますが、ディーター・ラーザー演じるヨーゼフ・ハイター博士の持つ「つ・な・げ・て・み・た・い」という欲求を全面に押し出した狂科学者っぷりがとても素晴らしかったです。博士は私の持つ凄い科学者のイメージ通りの、”人嫌いで気難しくてとっつきにくそうな面”と”自らの興味の分野になると途端に雄弁になる面”という二面性を持った人物であり、その興味のある分野が「ムカデ人間」しかないため、余計にその狂いっぷりが際立ってて良かったです。
ただし、狂っているだけならこれまでにもホラー映画界には多くの博士たちが登場したわけですが、ハイター博士が彼らと一線を画す理由として、ハイター博士の強さもあると思います。予告編では映画界が誇る狂った博士”ハンニバル・レクター”と並ぶ存在として謳われていますが、確かにレクター博士ほどの人外な強さでは無いにしろ、それでも追われているとき恐怖感、絶望感を十二分に感じさせてくれる演出が素晴らしかったです。


(サングラス+麻酔銃の佇まいが大門刑事を彷彿させる男が弱い訳無かろう)


その他にも、北村昭博さんのやけくそ感がありありの演技(彼がしゃべるだけで劇場では笑い声が)や、完成したムカデ人間の異様さとムカデ人間同士の奇妙な連帯感、そしてホラー映画のお約束に習って後半きっちりハイター博士が逆襲される点など、見るべき点は多いのでジャンル映画好きにはお勧めな一本ですよ。
と、ここで〆てもいいのですが一点だけこの映画で気になった点があるのですよ。



終盤、ムカデ人間たちに逆襲されたハイター博士は足に怪我を負って立って歩くことができなくなってしまいます。これ自体はムカデ人間たちが会った目(ムカデ歩きしかできないようにするために膝の腱を切られてしまう)に会う因果として当然の流れですが、それでも這ってムカデ人間たちを追いかける博士の姿を見ているうちに、博士の内から「つ・な・げ・た・い」から「つ・な・が・り・た・い」の欲求が湧き上がってくるのではないかと期待してしまったのですよ。ムカデ人間を作ったものとして、最終的に自分がムカデ人間の一員になってみたいとの考えが湧き上がってきてもなんら不思議じゃない。だからこそラストは4番目(か5番目)につながった博士の姿で〆てほしかったなぁ。
ムカデ人間につながった博士の死に顔は漫☆画太郎作品に出てくるババァ並みの安らかな死に顔だと思いますよ。