俺と「カンパニーメン」

シネ・リーブル梅田で『カンパニー・メン』の初日に行ってきたのでござる。
ベン・アフレッククリス・クーパートミー・リー・ジョーンズケビン・コスナーの4大アカデミー俳優競演作なんて仰々しい宣伝文句が並んでますが、内容はいい意味で地味で普通だけど色々心に残る作品でした。


〜あらすじ〜
俺の名前はボビー・ウォーカー。ボストンに本社を構える一流企業GTXで37才ながら販売部長やってるぜ。愛する妻と二人の子供たちと一緒に、こないだ買ったばかりのちょっと大き目の庭付き一戸建て住んでて、愛車はポルシェ。年収とかそんな生々しい話するのはアレだけど、昨年のサラリーは12万ドル貰ってたよ。趣味はゴルフで、当然あの名門クラブの会員になってるぜ。
今日も元気にゴルフやって出社…、アレ?なんかみんな様子ちょっとおかしいような…。えっ?部門閉鎖、リストラ?流石に俺は対象が…、オイテメー、サリー(人事部長)ふざけんなよ!何で俺がリストラなんだよ!俺を解雇したことをいつか後悔させてやるからな!
うわー…、やっぱこんな所(再就職支援センター)にいる奴はしょぼくれたツラしてるなぁ…。こんな所に何ヶ月もいるとこんな顔になるんだろうけど、俺にはまったく関係ないな。どうせ、今までの人脈があるから直ぐに就職は決まるから!


映画自体は、順風満帆だった人生がある日突然のリストラによって一変していくボビー(ベン・アフレック)と、会社の創業者の一人であり副社長でもあるジーン(トミー・リー・ジョーンズ)と、溶接工からの叩き上げでいまや会社の重役に上り詰めたフィル(クリス・クーパー)の3人の立場から激変していく会社と自分たちの関係を描いた作品なのですが、年齢が一番近いということもあってか(それでもかなり違うけど)、やっぱりボビーの立場に立って色々考えてしまった映画でした。(逆にフィルやジーンの立場もそれぞれに興味深いけど、それは劇場でご確認くだされ。)



(この二人も物凄いいい味出してるよ!)


あらすじでも描いたように、主人公のボビーは絵に描いたような順風満帆な人生を送っていて、性格は自信家で傲岸不遜それに加えて見栄っ張りと、他の映画なら間違いなく嫌な上司役になるであろう性格をしています。朝一の会議で自分のゴルフの成績をアピールする辺り、私が部下なら心の中で「お前のゴルフの成績なんて知ったこっちゃねーよ」って心の中で思いますね。(更には顔に出るかもしれませんが…)
そんな、仕事はできるけど人間的にはちょっとっていう部分もあるエリートサラリーマンがベン・アフレックに凄くはまっていて良かったです。『ザ・タウン』を見たときはちょっと鼻に付く主人公だなとキャラクターとのギャップを感じたわけですが、今回はその鼻に付く感じが凄く良かったよ!


でも、正直な所なんだかんだ言いながら、それなりの社会的な地位と年収のある立場に居たことがあって、物凄く良くできた美人で賢くて優しい”もう人生勝ったようなもんだ”レベルの嫁(マギー・ウォーカー)がいて、尚且つ子供たちもそれぞれの立場で父親の事を思っていてくれている。「お前に職さえあれば完璧な家族じゃないか!」(実際にリストラに会うまでは完璧な生活だったわけで…)と言いたくなるほどの理想的な家庭を持っているボビーに、なんで自分が共感できてるんだろう…と正直引っかかる部分もあったのです。でも「カンパニー・メン」を見た翌週、「ゴーストライター」を見るためにシネ・リーブル梅田に行ったときにリクルートスーツ姿の学生さんたちを見て、”あぁ、自分が就活していた頃に感じた事をこの映画からも感じたんだ”と納得したのでありました。


・再就職活動始める時にあった「俺は他の奴とは違うんだよ!」という変な自信(お前より凄い奴なんて腐るほど居るよ)
・俺には今までに培った人脈や俺自身のブランド力があるから直ぐに何とかなる!(実はそれ自体がお前の所属していた組織による部分が大きい=お前自身にそれほどの価値が無いことに気づいていない)
・面接官の傲岸不遜な態度(流石にボビーみたいに切れることは無かったですが…)
・面接中のやり取りでは”まさに自分の意を汲み取ってくれる運命の企業”と感じた所から送られてくる冷たい返事(その時の言葉にもならない絶望感といったら…)
・思い起こすと、何で今の会社に入れたのかも良く分からんなぁ…。(これは映画本編とは関係ない!)

もちろん、前述したようにボビーのほうが背負っているものが大きい分だけに、再就職活動で感じるでの苦労も絶望感・徒労感も私とは半端にならないものだったと思いますが、それでも同じような状況、気持ちになった奴共感しないわけには行かないのでした。そしてそんな自分を全面的に支えてくれる家族が居て、親や親戚(特にボビーのような人間を毛嫌いしているはずの義兄ジャックがを差し伸べてくれる…)の支援を受けながら立ち直っていく(かつ労働の本来の意味に立ち返っていく)後半部は、ベタかもしれないけれどこちらの心に染みるものがありました。



(俺自身こんな態度だったような気がする…)


ラストはベタで安易なハッピーエンドじゃね?っていう批判があるかもしれません。でも実際には、彼が再就職した新会社も経営が順調に進んでいくかと言えば、厳しい状況は全く変わっていない訳で(当然、それを彼らも知っているが)、それでも一度は絶望の淵に立った彼が開き直りとも受け取れる新境地で再びスタートした姿を見て、俺もちょっとがんばろうかなと思ったのでした。

既にカンパニー・メンな人だけじゃなくて、これからカンパニー・メンになろうとしている人にも「何のために働くのだろうか…」を考えさせてくれる部分がある作品なので、オススメ。



(何度も言うが、こんな理想的な嫁が居るだけで人生勝ったようなもんですよ!)