俺と「あの日のように抱きしめて」

 「あの日のように抱きしめて」を見てきました。この映画、正直ラスト5分を見るまでは「全然私には合わない映画だなー」なんて思ってたのですが、そのラスト5分が衝撃的過ぎて、「ホント、ラストシーンのために全てがあるような映画だな」なんて思う映画だったのです。で、今回の内容はそのラストシーンについてしかふれてないので、未見の方は是非作品を見てからこの記事を読んでくれるととても嬉しいです。


 さて、そのラストシーン、ニーナ・ロス演じる主人公のネリーが「Speak low」というジャズのスタンダードナンバーを歌うというシーンです。彼女はナチス政権下のアウシュビッツで受けた虐待のために、以前の美声を失い、歌を歌うことはおろか日常会話にもたどたどしくなるほどに、自らのアイデンティティの一つを失っていました。そして彼女が同じく失ってしまったモノが、夫のジョニーでした。しかし、彼女は戦後彼と数奇な再会を果たし、いろいろあってこの「Speak low」を歌うのです。*1



 ここで「Speak low」の歌詞を引用します。

Speak low when you speak, love
Our summer day withers away too soon, too soon
Speak low when you speak, love
Our moment is swift, like ships adrift, we're swept apart, too soon

Speak low, darling, speak low
Love is a spark, lost in the dark too soon, too soon
I feel wherever I go
That tomorrow is near, tomorrow is here and always too soon

Time is so old and love so brief
Love is pure gold and time a thief

We're late, darling, we're late
The curtain descends, everything ends too soon, too soon
I wait, darling, I wait
Will you speak low to me, speak love to me and soon

Time is so old and love so brief
Love is pure gold and time a thief

We're late, darling, we're late
The curtain descends, everything ends too soon, too soon
I wait, darling, I wait
Will you speak low to me, speak love to me and soon
Speak low

 実は、彼女が歌う「Speak low」は最後の2行の前「I wait」の部分で終っています。この歌を完走するならば、この後愛する人(いや、この映画では愛してた人と言うべきか)に、「私に愛の言葉を囁いて 今すぐ愛の言葉を囁いて」と歌わなければならないのですが、その部分はあえて歌ってないのです。*2
 さて、この映画の原題は「PHOENIX(フェニックス)」*3なのですが、このラストシーンを見た人なら「フェニックス=彼女が声を取り戻したこと」と気づくはずです。しかし、歌詞のことを考えると実はそれだけじゃないのかなと思ったのです。はじめにも述べたように、彼女のアイデンティティの一つは夫との関係であったはずですが、このラストシーンで彼との関係を決別し、再び一人の女性として生きる決意をした、そんな意味が原題の「PHOENIX」と「Speak low」に込められてる、そんな作品じゃないのかなと思うのです。

*1:ちなみに同曲は作中で何度も繰り返し流れる。

*2:このシーンはyoutubeでも視聴可能https://youtu.be/rkAHi2wNSsc

*3:作中でジョニーと再開するバーも同じ名前