俺と「2012年の映画を雑に振り返る」

「2012年に見た映画を全部ランキングにする」と偉そうな事言ったけど、正直無理。とはいえ2012年の映画をリスト化した表を眺めてると、「2012年の映画を振り返る」の記事で感じたような事をいくつか思いついたので、ランキングの代わりに雑に振り返ってお茶を濁してみましょう。



・やっぱり音楽が印象的な映画が好き

これは「2012年の映画を振り返る」でも書いたのですが、映画内で歌ったり、踊ったりしてる映画が印象的だったなと。あの記事に載せた三本以外にも思いつくままに挙げていくと、


・「桃さんの幸せ」でアンディ・ラウと旧友たちが電話越しに合唱するシーン。
・「高地戦」で敵味方が霧の中で「戦線夜曲」を哀しい声で歌うシーン。
・「ザ・マペッツ」は冒頭での「Life's a Happy Song」のあの世界に引きずり込まれる感が凄く好き。
・「桐島、部活やめるってよ」の屋上のシーンに流れる吹奏楽部の演奏もそうだな。
・歌を歌う訳じゃないけど「ポエトリー アグネスの詩」の感情を発露させるツールとしての詩の使い方(というか本来の使い方だけども)が良かった。
・同じ意味で行けば、「フィッシュタンク」の踊る事も主人公の唯一の自己表現の場として痛いほど機能してたな。
・「ミヒャエル」で主人公が超音痴なサニーを歌うところはベスト3に入れたかったぐらいの印象的なシーン。


他にも「ロボット」、「ヤング・アダルト」などなど、歌ったり踊ったりしてる印象的な映画はあるのですが、キリが無くなるのでここらへんにしましょう。
あと、具体的にこの映画って特定の映画じゃないけども、カラオケが出てくる(特にスナックみたいな所)と物凄く場末感みたいなのを感じて良いんですよね。別に日本映画だけじゃなくても、最近アジア映画でも結構いい年こいたおっさん(やおばさん)がカラオケを熱唱してるシーンが出てくるのがたまにあるんですよ。別にあんまりカラオケ好きじゃないけど、ああいうシーン気になるんですよね。
モチロン劇中で歌ったり踊ったりしなくても、大変印象的なBGMが使われてた映画は数多くありました。そいつもついでに挙げておきましょう。


・「ファミリー・ツリー」の重いお話を和らげてくれるハワイアンな音楽
・「ミラノ、愛に生きる」はストーリーは結構どうでもいいの不倫ものなのに、物凄く重厚な音楽が使われてて面白かった。
・「テイク・ディス・ワルツ」ではバグルスの「ラジオスターの悲劇」がここぞと言うタイミングで使われてたり。
・「アニマルキングダム」で一家の中で一番キレてるあの人が、エアサプライの歌(しかもかなり爽やか)を一人静かに見入っていたな。
・「バトルシップ」はAC/DCの「Thunderstruck」をBGMにおじいちゃん達と戦艦の準備をするあのシーンでアガリまくりですよ!
・「マダガスカル3」はジャーニー派としてはカーチェイスを挙げたいところですが、やっぱりサーカスでの「Firework」ですよ!!


こちらも挙げ始めるとほんとに後10本ぐらい余裕で出てきそうなので、熱い鼻息を抑えてこの辺にしておきましょう。



・走ってるシーンがある映画が好き

なんか今年は走ってる映画も結構印象的だった気がします。別にその人が足が速いとか遅いとかそいうのじゃなくて、なんかスピードというか躍動感を画面から感じさせてくれるシーンが良いんですよ。(なので、乗り物に乗ってても可)
これも、いくつか例を挙げてみましょう。


・「ファミリー・ツリー」で妻の浮気を知ったジョージ・クルーニーがドタドタと走るシーン。
・「エージェントマロリー」の主人公のマロリーちゃん。凄腕の女スパイなのに(スパイ=走るの早いという勝手な思い込み)、走る姿がそんなに速そうに見えなくて逆に面白かった。
・「捜査官X」でドニーさんが屋根を走るシーンはあの映画の中で一番好き。だってドニーさん走るの超はええから!
・「SHAME-シェイム-」でもファスベンダーが延々と夜の街を走るシーン(結構な長回し)があって、あのシーン見ただけで「この映画いいなぁ」と思ったりしたり。
・「007 スカイフォール」で次々と乗り物を変えながらもジェームズ・ボンドが敵を追いかけていくあのスピード感がたまらん!
・「夢売る二人」だと前半と後半で阿部サダヲが二人乗りしてるシーンが凄く好き。はじめてみた時は前半の松たか子との二人乗りにグッと来たけど、2回目見たときは後半の二人乗りの方が良かったな。
・「戦火の馬」の馬ちゃんも精一杯走ってたよ!
・「メランコリア」の乗馬シーンはそれまでの不安定な画面とはまったく異なって、あの映画の中でかなり異彩を放ってる部分だと思う。


あとは今年も数多く見れたカーチェイスのシーンなんかもそうですね。
やっぱり音楽と同じぐらいスピードにも中毒性があると思うんですよ。で、話は全然変わるんですが、コレは別に登場人物が早く動いてることが必須じゃないのが、私的にポイントなんですよ。例を言うと「へんげ」のラストにかけての展開とかは画面的にスピードを感じるわけじゃないのに、コチラの予想だにしない展開が立て続けに起きるので「凄いスピードの映画だ!」と思っちゃったりします。別の例で行くと、「ミヒャエル」のラストの展開なんかもスピード感というか、圧迫感みたいなズンズンとストーリーが核心に迫っていく感じが好きですね。
まとめると、人たちが躍動感のある動きをしてるシーンがある映画と、映画の展開にスピード感のある映画が好きなのかなと思ったり。



ドタドタと走ってたジョージ・クルーニー



・変態とかダメな奴とかが好き

いきなり「私、変態が大好きなんですよ!」なんて言っちゃう人とはちょっとお友達になるのをためらうかもしれませんが、そこをグッとこらえてちょっとお付き合い下さい。もちろんその人の嗜好ってのは人それぞれですから、実生活ではうへえってなるような人でも映画だと魅力的な人物になる場合が多々ありますよね。で、そんな人物に私が好感を抱くバロメーターなのが、「お前のその熱意をもっと他に注ぐことが出来ていれば…」っていう部分なんですよ。その熱意が凄ければ凄いほど「マジか!でも、もっとやれ!」と実生活では全くお近づきになりたくないような人物を、いつの間にか応援している訳ですね。何で応援してるんでしょうかね。実は私自身そんな行動をしたいという密かな欲求があって、自分がブレーキを踏むところでも平気でアクセルを踏める人物を、心の底では羨ましく思ってるのかも知れません…。
そんな、愛すべき(いや、別に愛さなくてもいいか)変態さんたちを紹介しましょう。


・そこまでしてエロサイトが見たいのかと思った「SHAME-シェイム-」の主人公。まあ、会社の人がエロサイト見てたら、間違いなくドン引きですけどね。
・好きな娘のベットの下で静かに待ち続ける努力は買うけど、やっぱりただのゲス野郎な「スリーピング タイト 白肌の美女の異常な夜」の主人公。
・やっぱり何事も計画性が大事だよね、と気付かせてくれる「悪の経典」の主人公ハスミン。
・男子を監禁して○○してる下衆野郎だけど、「俺の領域に頼みもしないのに土足でズカズカと上がるってくんなよ!」って所に共感できるなと思った「ミヒャエル」の主人公。
・途中までは変態だなぁ…と思ってたら、ド変態だった「私が生きる肌」のアントニオ・バンデラス


なんか今思い返してもホント人としてどうなのって位の変態さんばっかり印象に残ってるな…。そんな変態さんと同じくらい好きなのがダメな奴なんですよね。
ダメな奴っていきなり書くと物凄く語弊がありそうですが、自分の弱さを知りつつ、感じつつもその弱さをずるずる引っ張っちゃう大人にちょっと、いや、かなり共感しちゃうんですよね。多分、自分自身もそんな面を過分に持つダメな大人なので、そんな面を持つ奴らを生暖かく見守ることで、自分自身のダメさ加減をある程度慰めつつ肯定しているのだと思いますね。
どんな奴にグッと来てしまったかといえば、


・「チキンとプラム」の主人公(マチュー・アマルリック)が、よかったあの頃の思いを通じてしか現世と交わることが出来ないように感じる悲哀。
・「思秋期」は一時の感情に身を任せて暴力(=快楽)を振るった後に、徐々に湧き上がってくる何でこんな事を…って感じの後味とか。
・「星の旅人たち」はそれぞれのキャラクターの持つ弱さ、特にマーティー・シーンの頑迷さが何故かグッと来たな。
・「ホン・サンス 恋愛についての4つの考察」に出てくる4作品の主人公も、なんかずるずる流される感じが凄く現実感(監督の実体験かもしれない)を帯びててよかったな。

あと共感するダメ人間とはちょっと路線が違いますが、「苦役列車」の森山未來の酒飲んで説教してる所とかは、なんか去年たまに飲み会の席で見たし皆同じなんだな。
その他変態ともダメ人間とも違いますが、「ライク・サムワン・イン・ラブ」の裏のババァの長年に溜めた情念の鬱屈した部分を他人にブチマケルその様(しかも一気にじゃなくてねちねちと小出しにするんですよ!)、アレは、2012年で一番衝撃に残ったキャラクターでしたよ。


苦役列車」のこのシーン、既視感のある光景である...。



・良く分からんけど好き


好きとか好きじゃないとかって結局は私の感覚、しかもそれは結構あやふやなものなので、映画を見たときの体調とか気分なんかの些細な要因で左右されたりするんですが、それでも上に書いたような(モチロンそれ以外にもいっぱいあるよ)グッと来る部分がある映画は、そんな要因を軽く吹き飛ばすだけの魅力があるわけですよ。で、話は全然変わるんですがエンドロールの時間、アレが結構好きなんですよね。映画っていう現実を離れた世界から戻る前に、その世界の余韻に浸りながら映画を反芻する事が出来る時間がエンドロールと思ってるので、キャストやスタッフの名前なんかを見ながらぼーっとその映画の事を考えてるときが結構ありますね。そんな訳で、エンドロール中は指摘にはその映画のグッと来たところをある程度具体的な形に出来る貴重な時間でもあるんですな。
ハイ、前置きが長かったですね。エンドロールを2回も見てずっと考えたのに、2012年で一番モヤモヤした良く分からない感情を抱えちゃったのが「ライク・サムワン・イン・ラブ」です。
個々のシーンとかキャラクター(上に挙げた裏のババァとか!)は凄く印象に残ってて、それだけでもグッと来たポイントがある映画だと思うんですが、エンドロール中に考えてたのはそういうポイントじゃなくて、「なんで、こんな良く分からない映画が面白いんだろう…」という感覚でした。2回目見た時も”この映画の面白さの正体”みたいな部分はフワフワしてて上手くつかむことが出来ず、「映画には(映画にもかもしれんね)言語化できないような人間のどっかの感覚をくすぐる要素があるのかもしれん…」なんて考え出す始末。
良く分からない映画っていう映画はたまに出会ったりしますが、たいていは「良く分からないので評価できない」か「良く分からないけど嫌い!」って評価になってしまうんですけど、「よく分からんけど好き!」ってなった映画はこの映画がはじめてかも知れないですな。


よく分からんけど好き



・今まであんまり見なかったジャンルの映画が好き


一昔、というかほんの数年前は、「恋愛映画?…なんでそんなの見なきゃいけないんだよ。男ならもっと他に見るべきものがあるだろ!ゾンビがワーッと出てくる映画とか、宇宙人がドワーッと攻めて来る映画とか、田舎に遊びに来たチャラい学生たちがドワーッとぶっ殺される映画とか…」なんて人間でしたが、今年は男女の関係を見るようになったなと。もちろん、そんな作品たちを見るようになったのは面白い作品が多かったからだということで、人生何が起きるか分からないですな。もちろん、ゾンビとか宇宙人とかチャラい学生たちがぶっ殺される映画とかが嫌いになった訳じゃなくて、今まではあんまり見なくなった分野の映画を見てみたら思ったよりも全然面白かったって感じ、例えて言うなら、子供の頃はから揚げとかハンバーグとかが好きだったけど、最近は酢の物とか鯖の味噌煮とかも好んで食べるようになってきた味覚の変化のような感じです。
そんな男と女の関係をメインに描いてる映画を見てて思ったのが、「意外にも以前から自分の好きなジャンルだったゾンビ映画とかSF映画とかと、共感するポイントって結構同じ」という事でござった。いやー、双方の映画ファンから「ちょっとお前頭大丈夫か?」と思われるような発言ですねー。でも、例えばゾンビが出てくる映画ってホント毎年毎年かなりの数がDVDソフトとしてリリースされたり、たまに劇場用映画として公開されるわけですが、その中の大半はうーんという感じで必ずしもゾンビが出てればイイという訳じゃないんですよ。私的にゾンビ映画に期待してる内容は「ゾンビ対人間」の関係と「人間対人間」の関係の二つがあって、後者の部分が面白い方がゾンビ映画として好きな率が高いんですね。
じゃあ、シチュエーションが全然違うけど、もっと映画の内容を「人間と人間との関係」に収斂させた映画、具体的には男と女の関係を描いた映画が面白くないはずがあろうか、いやない(反語)。というコロンブスの卵的な発想に今更気付いた訳ですよ。そう考えると、「宇宙人が侵略してくるってイキナリ状況」と「どこぞの男と女が恋に落ちるって状況」も程度の差こそあれ特段差はないよね、って感じるから不思議!いや、感じないか…。
で、男の女の関係を描いたところの何がいいかって言えば、極論を言えばどれも「好き」か「嫌い」を描いた作品なのに、そのどれもが違ってて面白いなと。ある作品は(その人の事を)「好き」になったり「嫌い」になったまさにその瞬間を切り取ってたり、逆に別の作品ではいつの間にか「好き」になってたり「嫌い」になってたりと物凄くあやふやだったりして、この描き方の差から「好き」と「嫌い」の感情そのものなのかなと思ったりして面白い!しかし、ホントこの「好き」とか「嫌い」って感情は厄介ですな…(しみじみ)。
そんな2012年に見た男女間の関係を描いた好きな映画を思いつくままに挙げてみると、


ミラノ、愛に生きる」「テイク・ディス・ワルツ」「夢売る二人」「ライク・サムワン・イン・ラブ」「チキンとプラム〜あるバイオリン弾き。最後の七日間〜」「ホン・サンス/恋愛についての4つの考察 
教授と私、そして映画、ハハハ、よく知りもしないくせに、次の朝は他人」「今日、恋をはじめます」「恋愛だけじゃダメかしら」などなど

ほんと、5年ぐらい前の私が見たら何があったんだってぐらい良く見てるな…。


特に「今日、恋をはじめます」は、邦画+恋愛映画という2年前の私が足を向けないジャンルの映画だったな。



という訳で2012年の映画について相当雑に振り返ってみたところ、私は音楽が印象的で走ってるシーンがあって変態とかダメ人間が出てて良く分からない男と女の関係を描いた映画が好き、というとんでもない結論になっちゃいましたね。
他にも書きたいことは一杯あった(特殊上映とか、映画祭とか、旧作とか、○○な映画が好きとか…)けど、全部書いちゃうと2012年振り返ってるだけで2013年の半分ぐらいが終りそうなので、気持ちを切り替えて2013年の映画を楽しみにするのです。というか、もう既に結構な本数見てるな…。